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そんなヤキモキした気持ちのまま半年が過ぎた頃。大変な事件が起こった。
ソビエトの「お下がり」ボロ戦闘機を使い倒していた、敵国アランとアメリカとの国交が開かれ。その手始めに「F14トムキャット」が三十機供与された。

何でも東洋のニホンという国に、石油を輸出する約束の見返りだそう。
アメリカの同盟国の、その東洋の小国に・・・。

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アランのは同じトムでも、うち(アラク)のトムとは全然違う。
電子装備も改良されているだろうし。なにより一発百万ドル。天下無双の「フェニックス・ミサイル」を搭載しているとの事。フルで。

確かに。フェニックスは機動性が低く、一発くらい彼女の腕ならかわせるかも知れないけど。
何発も。特に時間差を置かれて食らったら絶対無理。
回避旋回で、必ず追尾ベクトル(逃げる方向と)が合ってしまうもの・・・。

せっかく「この子もこの基地で、なんとか生き残れるかも」。そんな希望を持ち始めていたのに・・・。
これにより「敵機(F14)と当たったら、絶対落とされてしまう・・・」、希望は消し飛び、絶望だけが残った。

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一ヵ月後。アランのトムが最初に攻撃したのは、最前線(うち)ではない。アラク正規空軍基地だった。
恐らくアランの空軍部隊も、新鋭機の「練習がてら」の攻撃だったのだろうけど。装備・訓練度の低い正規空軍は、なすすべ無く壊滅。

「次はうち(第88空軍傭兵部隊)・・・」。と言う状況が決定的になった。

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そしてその日は来た・・・。

正規軍への襲撃でも、ほとんど被害の出なかった。無傷のアラン・トム三十機が、レーダー網を全く気にせず、堂々「うち」へとやって来た。
「どうにもならない、どうする事もできない・・・!」。

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「もし・・・。もしこの88が壊滅すれば、彼女を亡命させる事ができるかも・・・」。
「いや、アラクがある限り、いずれ居場所を突き止められてしまう」。
「死んだ事にすれば・・・」。

考えてはいけない事が頭を過る。

わたしは断られる事を覚悟して、彼女のトムのタンデム(レーダー・クルー)を申し出た。
ところが彼女は意外にも、「よーし!じゃあ今日は、きょうかんとドライブですねぇ」。っと、ハリキリ出した。
「・・・だったら、もっと早くに彼女のトムに乗って、成績を上げるよう指導すれば良かった・・・」。

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早朝の襲撃は前線のレーダー・ミサイルサイトを総ナメにして、昼頃敵機は一旦退却。

出し抜けに嵐の前の静けさが訪れる・・・。
まんじともしない時を過す司令部。黙々と自分の機体を調べまわすパイロット・・・。

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午後。
再び湧き起こる警戒警報。わずかに残ったレーダーサイトと、急行したレーダー車両が敵機を補足。
警戒警報は出撃命令に変わった。

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ラン・アンド・アゥエイで離陸するセラ機。
地獄の始まりだった・・・。

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トムキャットのベクター・レーダーの性能は、うちもあっちも同じ。
だから両方同時にロックオンし合ったけど、こっちの手持ちはサイドワインダー・・・。手も足も出ない。

トムのフェニックス・ミサイルは敵機六機を同時にロックオンして同時攻撃できる(ロックオンだけなら24機同時だけど、搭載数が六発なので)。

「ロックオン警報」、敵機の「ミサイル発射警報」が鳴り響き続ける。
「いったい何発のフェニックスが、この機に向かっているのか」「寮機だって三十機近くいるのだから、この機だけ「取りこぼし」になっていれば・・・」。
なんともムシの良い考えが過るが、恐怖を感じている暇など無い。「どうする!」「なにか彼女にしてあげる事は!」。

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一秒が一時間に感じる。

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距離10マイル!。
突然彼女が[ロール」「背面飛行」「引き起こし」を掛けた。
何かのタイミングを測るように、ユックリと。

「スプリットS?」。ところが「引き起こし」は垂直で終わり。つまり地面に向けて垂直降下、しかもアフターバーナーで限界速度!。
見る見る迫ってくる地面。

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「絶望的な闘いより、自殺を選んだの?」。

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「死ぬ!!」。そう思った瞬間猛烈な引き起こし。
首の骨が「ポキ」っとキシむ音。ブラック・アウトに入る直前に見たグラビティ・モニタの数は9.7Gを示していた。

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G地獄が終わって視界が戻り、目に飛び込んで来た光景もヤッパリ地獄だった。
高度80フィート大気速度1,000ノット!!。
現実感覚が完全消滅。

しかし次の瞬間、バックミラーに映った無数の爆発閃光で現実に復帰。
普通の人間なら、復帰はおろか、意識さえ戻らないだろうが。さすがチヨミも訓練を受けた身だった。
しかもこの状況が把握できたのも、同じ理由からだろう。

フェニックスは機動性が低いため、この機を追尾してきたものは旋回しきれず。地面に激突した。
「そうか、後から来たの(フェニックス)も、近回りしたから。全部一緒になってしまった」。

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一発も追尾されていない事を確認した彼女は、次の瞬間、機体を引き起こして急上昇を始める、ほぼ垂直上昇。

上空もヤッパリ地獄だった。

至る所に残る、恐らく寮機のものと思われる爆発煙。そして空を覆う敵機の機影。

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もの凄い密度の敵機。そう、フェニックスで敵を全滅させたと思い込み。散開すらしていない。

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不意を突いた彼女がサイドワインダーを矢継ぎ早に三発発射。

更にGUNに切り替えた彼女の餌食になったのは、この一回目の「打ち込み」で何と5機に上った。

一瞬で5機を血祭りに上げた彼女が反転する。

敵のど真ん中で。まるで「我ここにあり!」と知らしめるように。


チヨミ「足を出すなー」。

慌てて散開する「獲物」が、次の瞬間二機火だるまに。「あれでは脱出もできないだろう・・・」。

一瞬、場違いな心配が湧いてくる。目の前に展開する信じ難い光景に、チヨミの現実感覚が、再び薄れかけていたのかも知れない。

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彼女の戦法は徹底的な接近戦だった。否。こういう「状況」だったから、この戦法を選んだだけかも知れない。

しかも機体同士が触れ合うくらいの至近距離。そう。こうすれば敵の寮機が援護射撃できない。

一度など、本当に接触し。初めて聞いた、「彼女の舌打ち」を。「するのね、舌打ち」。

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彼女の操機は常軌を逸していた。
限界を超える引き起こしで、一瞬にして敵機の後背にくっ付けたり。意図的に失速させるなど茶飯事。

ほとんど翼端失速状態で引き起こし、そのままスリー・クオーターまで宙返りし垂直降下に入ったり。
あまりに強引なヨーヨーは、「ほとんどフラット・スピン状態!!」だった。


チヨミ「低速ヨーヨーから反転って・・・。一回転余分でしょー!」。

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通常の空中戦では失速状態など、「かっこうの餌食」のはずだけど。敵機に「連携」が無いため、絶好の射程位置に付けた敵機も。
常に接近戦状態を保っているため、うかつに攻撃できない。

そう。彼女は敵機を「人質」に取っていた。

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