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恐らくは大した時間ではなかったのだろうが、「永遠」のように感じられる地獄の時間。
否。わたしだって飛行機乗りだから、一生に一度体験できるか否かの体験が展開される。

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どれ程経ったか。
数え切れないブラック・レッドアウトが続いた後。視界が戻った瞬間、唐突に周囲の異変に気付く。
すぐさまレーダーレンジを見て、全ての状況を把握した。

全ての敵機がマイナス・ドップラー(相対速度マイナス=本機から遠ざかり)。

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敵機が退却を始めたのだ!!。あまりの被害からだろう。

生き残った!。それだけでも「希望の光」だけど、同時にもっと大きな希望が湧いてくる。

彼女は今回20機程落としている。情けない話、レーダー員なのに正確な数がわからないけど。

つまり今回の撃墜報奨金だけでも、十分保釈金をペイできる。

つまり除隊できる。彼女は「自由の身」になった!!

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ところが次の瞬間、彼女が叫んだ言葉に。やっと訪れた安堵の気持ちも一気に氷付いた。

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「むぁてー!!」。

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同時にアフターバーナー全開、29トンのトムキャットが、はじけるように追撃を開始する。

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「待ったー!!」。

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インカムがあるのを忘れて、わたしは怒鳴ってしまった。
「うるさーい」というしぐさをしながら、「どーしてですかぁ?」。と、いつものすっとんきょうな返答が返って来る。

「95発の残弾でどうする心算なの、とにかく一旦もどりましょ」。

「95発あればあと二機は硬いしぃ。敵はパニック状態だから、反撃して来ないとおもいますよぉ」。

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確かに一理ある。敵だって人間なのだから、当然死にたくないし、退却命令が出ているのに反転して。自分が「餌食」になりたくないと思うに決まっている。
そう。彼女は狂ったように敵をなぎ倒しているが、実はもの凄く冷静。だからこそ、全ての動作が正確だった。

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結局、シブる彼女をなんとか説き伏せ帰路についた。
「なにかあったら、わたしが・・・」と思っていた。レバー(脱出装置)を引けぬまま・・・。

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基地に帰ると、ひじょうに「ふくざつ」な雰囲気だった。
つまり、「セラがたった一機で敵を撃退した祝杯ムード」。「戦争全体の敗色ムード」。そして「間違いなく再び敵が攻撃して来る」という、せつな的ムード。
等等だった・・・。

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パイロットスーツを着たままベッドに横たわる、わたしの頭に浮かんで来るのは、彼女をどうやって説得して除隊させるか・・・。

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直球勝負ではかえって「頑な」になってしまうかも知れない。
肝心なのは、「故郷に錦を飾る」とか言う、彼女の持っている信念をどうやって満たしてあげるか・・・。

普段なら、すぐに出てくるような方策が、浮かんでは消え行く中、「地獄の一日」は終わりをつげた。

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